亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

彼の権力は今や、四方八方へと矛先を変えたり、内に籠ったりと、あやふやな在り方をしていた。


















その老王の傍らで、銀縁眼鏡の男は深い笑みを浮かべる。

「ええ。……王よ、何もその様に怖がらなくても結構ですよ」

「………!?…………わ…わしが…いつ怖がった…!………ケインツェル!!その無礼な口を閉じんか!」

…そこはやはり名だたる一国の王。憤怒の形相は誰もが震える程の剣幕だった。
…しかし、その怒りを意地の悪い笑顔でケインツェルはやんわりと受け止めた。

「………おおっと、これは失敬。……しかし王よ、あの書状が本物であると分かった今………お怒りになっている暇など無いのではないですかね?…フフフッ!…何らかの処置を取らねばなりませんねぇ!でなければ貴方様が醜態を曝すことになりかね…」

「ケインツェル!!」

怒りが沸点まで届きそうな老王はわななく唇で、傍らで笑いを堪え様としているが堪え切れていない側近に怒鳴り散らした。



「…おっと、失敬」

ケインツェルは自分で自分の口を塞ぎ、またにんまりと微笑んだ。

老王は頬杖を突き、舌打ちをした。


……どうもこの無礼な側近の無礼さは、いつまでたっても直らない。と言うより直す気などさらさら無いのだろう。

本人は自分の性格が、至極お気に入りの様だ。
……腹の立つ奴だが…それでも、頭の回る策士であるため、手元から外そうとは思わない。