どれくらいの時間だったのか分からないが、二人は眠っていたらしい。…らしい、と言うのも、実はあまり記憶に無いからだった。
ユノやレト、ドールとかいう少女と…魔の者のノア。彼等と共にこの部屋で何か会話をしていた筈なのだが…その辺りから記憶が曖昧だ。イブに関しては、何故自分が眠っていたのかも覚えていない始末である。上手く説明は出来ないが…何だか、急に凄まじい眠気に襲われたと言うか…。

…対するリストも、何故眠っていたのかあまり思い出せないのだが。


………最後に覚えているのは……あの、ノアの薄ら笑みである。思い出すと…何故か無性に言いようの無い怒りが沸々と湧いて出てくるから不思議だ。よく分からない、分からないが。

(…………後で一発…殴らせてもらう…!)

怒るとすぐ暴力に走ろうとするのは悪い癖だから止めろ、リスト…なんていう、昔言われた今は亡き前総団長の清きお言葉が頭を過ったが、俺の性に合いません、と投げ捨てた。


短くも奇妙に深い眠りから目覚めた二人の現在の体調は、とにかく最悪だった。
身体が、苦しい。何か食い物をくれと胃が激しく蠢く。ちょっと油断すれば、口の端から溢れんばかりの涎が滴り落ちる。蜘蛛の糸程の細さにまで削られた理性は、いつ切れてもおかしくない。切れたら最後……自分はどうなるのだろうか。

…考えただけでも恐ろしい。


(……これが…災い…か、よ…)


憶測だが、しかしこの凄まじい狂気の原因は…『目覚めの災い』というものに違いない。それがどんなもので、どういった悲劇を招くのか……主に獣が影響を受けるものであると、街の民達から得ていた口伝により予想はしていたのだが。




………まさか、自分達もここまで影響を受けるとは。



イブは、分かる。
つい忘れてしまいがちだが、彼女は元から人間ではない。外見は人間そのものでも、人の皮を被り人語を扱う野獣フェーラなのだ。
案の定、彼女に視線を移せば、その影響力は確かな様であることは一目瞭然。