雪は冷たい。
冷たいことを知っているのに。
触れている筈なのに。私は今、白銀の世界に横たわっている筈なのに。
何故か、冷たくない。
もう、冷たくない。
もう、何も。
感じな…。
「………………レ、ト…………死ぬな…」
果たして私は今、ちゃんと声を出せているのか。
自分の声も聞こえない。
言葉になっているのかも、分からない。
レト、レト、そこにいるのか。
お前は、私の腕の中にいるのか。
見えない。
もう、見えない。
怖い。
「…っ……父さんっ……と、と…父さんっ……!」
「…レト………レト……死ぬ、な……死ぬ…んじゃ、ない…ぞ………いいな…………………生き…るんだ。………レト………………………………………………死ぬな……」
瞼を閉じれば、やはり不思議と、自分の涙の温もりだけは分かった。
ああ、温かい。
火の傍にいる時や、珍しい日光の下にいる時とは違う、温もり。
アシュが笑う時。レトが駆け寄って来る時。
そんな当たり前の光景で、ふとした時に胸に宿る熱と、それは似ている気がした。
風の歌声が、聞こえない。
この国は、こんなにも静かだったか。
ああ、だがしかし。
レトの声だけは聞こえる。
私を、呼ぶ声だ。
父さんと、私を呼ぶ声だ。
あの子の声だけは、ずっと聞こえる。
ずっと、聞いていたい。
このまま。
このまま。
ああ、私は罪人なのに。
こんなにも幸せで、いいのだろうか。


