亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~









雪は冷たい。

冷たいことを知っているのに。



触れている筈なのに。私は今、白銀の世界に横たわっている筈なのに。

何故か、冷たくない。




もう、冷たくない。








もう、何も。

感じな…。























「………………レ、ト…………死ぬな…」




果たして私は今、ちゃんと声を出せているのか。
自分の声も聞こえない。

言葉になっているのかも、分からない。



レト、レト、そこにいるのか。


お前は、私の腕の中にいるのか。

見えない。


もう、見えない。









怖い。




















「…っ……父さんっ……と、と…父さんっ……!」





「…レト………レト……死ぬ、な……死ぬ…んじゃ、ない…ぞ………いいな…………………生き…るんだ。………レト………………………………………………死ぬな……」















瞼を閉じれば、やはり不思議と、自分の涙の温もりだけは分かった。

ああ、温かい。



火の傍にいる時や、珍しい日光の下にいる時とは違う、温もり。


アシュが笑う時。レトが駆け寄って来る時。

そんな当たり前の光景で、ふとした時に胸に宿る熱と、それは似ている気がした。




風の歌声が、聞こえない。

この国は、こんなにも静かだったか。





ああ、だがしかし。






レトの声だけは聞こえる。







私を、呼ぶ声だ。

父さんと、私を呼ぶ声だ。








あの子の声だけは、ずっと聞こえる。

ずっと、聞いていたい。

このまま。





このまま。















ああ、私は罪人なのに。


















こんなにも幸せで、いいのだろうか。