―――…しばしの沈黙が、流れた。
身体を寄せ合う互いの距離はほとんど零に等しいのに、言葉の無い静寂ばかりが漂い続けていた。
ただ、父の口から漏れる嗚咽だけが、聞こえる。
胸に抱きしめられたままだったレトはその間、父の声に全身全霊で耳を傾けるために、目を閉ざしていたが。
やがて、瞼を開き。
ゆっくりと、顔を上げて。
「―――………………………僕、知ってたよ…」
沈黙を破ったその呟きに、ザイのしゃくり声が一瞬、止まった。
ザイは目元を覆っていた手を外し、胸に抱きしめている我が子に顔を向けた。
この目はもう、何も見えない。光も闇も、何が何なのか、最早分からない。
だが、確かに、見えるのだ。
流れ出る涙も拭わず、鼻水をだらし無く垂らして、情けない程ボロボロに泣き崩れる……レトの顔が。
「…っ………ぼ…僕っ……僕ねっ……し…知ってたんだよ。…………小さい頃…父さん…っと…コム爺が話していたのを………僕…僕ね、き…聞いた…んだ……。……………聞いちゃった事………ずっと…隠してた………………ご、ごめ………ごめんなさい……………………隠してて…ごめ、んなさい………」
…そう言って、今度はレトが泣き喚き出した。
ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す我が子の声を聞きながら………ザイは、涙を流したまま、薄く微笑んだ。
全く。
変なところが、私とこの子は似ている。
何と言おうと、やはり、親子なのか。
この子は、やはり、私の子なのか。
そして、この子は………醜い私を知っていながら…。


