亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

何が違うの?…と小声でレトは囁く。

隠れたザイの目元からは、涙が一向に途切れる気配は無い。

何もかもが悲しそうで涙に塗れたザイの、理由の分からない切ないしゃくり声が、息を吐く度に、レト…レト…レト…と、息子の名前を繰り返した。

「………わ……私、は…………お前…の…ち…父親…で…ある…資格、も…無いっ……無いんだ……!………本と…う…に……わ、たしは………お前、に……謝らな、け、れば………ならな…い…んだ……」

レトの頭に置かれていた父の手は、息子の短い青銀髪を撫で………そっと、だがしっかりと、片手のみでレトを抱きしめた。
そして。






半ば叫ぶ様に。


ザイは、泣いた。




























「………あの…時…っ……!………アシュ…から、赤子…の………お前を………託された…あの…っ…あの、時……!………わ、私は…私…は…私は…………お前…をっ………………………………………捨てよう…と…したんだ………!」

















あの寒い夜。

あの時。













あの一瞬。

私は、彼女と赤子を、秤にかけたのだ。



私は、彼女を失いたくなかった。
私の中の勝手な、醜いエゴで出来た天秤は、アシュに傾いた。

彼女を、救いたい。

だから、彼女が嫌がろうとも、拒まれようとも。


彼女を、助けようとした。

託された赤子を、あの火の海に。

放って、しまおうと。







赤子など。

彼女を救うためならば。







たとえ私の子供であろうとも。

私の、子供など。































「―――…………………私は…私、は…っ……私は………最…悪………な…人間なん…だ………!………私は………お前も……殺そうと……………した…んだ……!…私は、お前の…父、で…あると………言う……資格、は…無いっ………!……父親、では……ないんだ………」