亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



少し驚いたけれど…本当に驚いた訳ではなかった。

…だって、僕…。

















「……………お、ま…え、の…母親は……アシュメ…リア…は………私の、せいで………私…が…殺…した…も、同然……だっ…たんだ………」



「………」



「………彼女…は……………ず…っと……助け…を………呼ん…で…いたん…だ…。………彼女は…私、に……私…を…呼ん…で、い…たの…に…………………私は…結局………救え……なか…った……」



「………」







暗い空を見詰めるザイの瞳から、温い涙が流れ出た。身体は何処もかしこも冷たくなっているのに。…頬の汚れを拭うかの様に絶え間無く流れるその滴だけは、何故か温かい。

泣いている。


父さんが、泣いている。










ああ、ほら、やっぱり。

母さんの話をすると、父さんは僕を見てくれない。



…ねぇ、父さん。


そんな寂しそうに。



何を、見ているの。

父さん。










「………何、も……してや…れ…ずに………私…は、殺し…て…しまったん…だ………。………私は……罪…人…だ。……………………彼女…の……名を……呼ぶ…資…格も…無いのに……それ、な…のに……………私は、まだ………………………………彼女が、好き…で…仕方ない……………………失って…か…らも、ずっと。………ずっと…なんだ…………………愛し…い…んだ……」



「………………父さんは…全然、悪くないよ……」





母さんがずっと好きっていう気持ちは、全然悪い事じゃない。
母さんだって、きっと父さんが好きだから。僕の、母さんだから。


僕は、嬉しいよ。







母さんのことが好きって、父さんが言ってくれて、凄く嬉しい。
















…不意に、ザイは涙で汚れた自分の顔を、痙攣する手で覆ってしまった。

大きな手の隙間から覗く、わななく唇。漏れる嗚咽。掠れた低い声音。

「―――…違うんだ」…という、震えた呟き。