暖めたら、また、温かくなるだろうか。
また、僕の大好きな。
大好きな、暖かい父さんの手に、戻るかな。
再度、今度はそっと父の手に触れれば………それまでただただ短いリズムの呼吸を繰り返していたザイが、一瞬ピクリと身体を震わせた。
…途端、冷たい父の手が、熱を求めるかの様にレトの小さな手を握り締めた。ガクガクと震える小刻みな振動が、レトの手にも伝わってきた。
父の乾いた唇が、微かに動く。
紡がれる小さな声は、本当に小さくて。
しかし、レトは一言一句聞き逃すまいと、父の顔に耳を寄せた。顔を傾ければ、涙が重力に従って、とめどなく流れた。
「―――………ぁ………………レ、ト……か?………そこに、いる…の、か……?」
開いた眼球は、もう何も映していないらしい。途切れ途切れの、なんだか久しぶりに聞いた様な気がする父の声に、レトは小さな声を返した。
「………そう、だよ。……………………僕ね、ここにいるよ……僕、暖かいでしょ…?」
…そう言って、レトは父の胸に頭を預けた。
すると、もう片方の冷たいザイの手が、レトの頭に乗せられた。
まるで撫でてもらっているみたいで………凄く嬉しい…のに。
………しゃくり上げることしか、出来ない。
「……………ど…こも……怪我、は………無いか…?」
「………無いよ。……僕、大丈夫だよ………………あのね、僕、ね………ちょっと泣いたけど………僕、父さんがいなくても、大丈夫だったよ。………ユノを、ちゃんと守れたよ……」
「…………………そ………う…か……………。…………偉い……な…。……………………レ、ト…」
「……何…?」
「…………………私は…………お、前…に………っ………謝ら、ね、ば………な…らない……こ、と…が、ある………」
瞬きを繰り返すザイの瞳が、悲しみと、不安と、そして何故か…恐怖の色を帯びた。


