真っ赤に染まった雪のキャンパスの中には、つい先程まで、城やここにいる全員を窮地に追いやっていた筈の空の魔石が…今は見る影も無いただの黒ずんだ石が、無造作に転がっていた。
ゼオスを切り捨てた際に、同時に切り落としていたのか。石は鏡の様な滑らかな断面を見せて、真っ二つに割れていた。
こんな、ただの石ころ一つにてこずっていたのかと思うと、ただもう、やるせない。
ああ、悔しい。
悔しい、けれど。
そんなことよりも、今はただ。
…ただ。
「……っ…………と…父ぅ…さん…」
一人の幼子の、震えた鼻声が、彼を呼ぶ。
純白の海の中。そこだけが綺麗に赤く染まっていて、その中央に、力無く横たわる彼がいた。
天を見上げたまま、太く大きな刃が突き刺さったままの胸を激しく上下に動かし、半開きの口で凍てつく様な冷たい空気を懸命に吸い込んでいる。
時折、彼は苦しそうに咳込んだ。吐血が続く。
大きく見開いた彼の両目は、濁りも無く澄んではいるものの…既に焦点は定まっていなかった。
身体が、痙攣を起こしている。
そのすぐ傍らで、彼の大切な…大切な、息子が一人。
切れてしまうのではないかというくらい、唇を噛み締めて。嗚咽を堪えて。
けれども、涙だけは、堪えきれないでいて。
何なのだろう。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
どうして。何故、彼は。
彼は、こんなふうに。
何故。
「何で、だい…?………何で…何で…何で、何で、何で………………何してるのさ!!…何でそんなに苦しそうなんだい!…起きてよザイ!!………お…起きてって…言ってるだろう!!起きてよ!!」
これは、夢だ。
夢に違いない。
だって、そうでなければ…あまりにも。
現実だと認めるには、あまりにも、酷すぎて。
悲しいのに、湧き出てくるのはやり場の無い困惑を孕んだ怒り。
ゼオスを切り捨てた際に、同時に切り落としていたのか。石は鏡の様な滑らかな断面を見せて、真っ二つに割れていた。
こんな、ただの石ころ一つにてこずっていたのかと思うと、ただもう、やるせない。
ああ、悔しい。
悔しい、けれど。
そんなことよりも、今はただ。
…ただ。
「……っ…………と…父ぅ…さん…」
一人の幼子の、震えた鼻声が、彼を呼ぶ。
純白の海の中。そこだけが綺麗に赤く染まっていて、その中央に、力無く横たわる彼がいた。
天を見上げたまま、太く大きな刃が突き刺さったままの胸を激しく上下に動かし、半開きの口で凍てつく様な冷たい空気を懸命に吸い込んでいる。
時折、彼は苦しそうに咳込んだ。吐血が続く。
大きく見開いた彼の両目は、濁りも無く澄んではいるものの…既に焦点は定まっていなかった。
身体が、痙攣を起こしている。
そのすぐ傍らで、彼の大切な…大切な、息子が一人。
切れてしまうのではないかというくらい、唇を噛み締めて。嗚咽を堪えて。
けれども、涙だけは、堪えきれないでいて。
何なのだろう。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
どうして。何故、彼は。
彼は、こんなふうに。
何故。
「何で、だい…?………何で…何で…何で、何で、何で………………何してるのさ!!…何でそんなに苦しそうなんだい!…起きてよザイ!!………お…起きてって…言ってるだろう!!起きてよ!!」
これは、夢だ。
夢に違いない。
だって、そうでなければ…あまりにも。
現実だと認めるには、あまりにも、酷すぎて。
悲しいのに、湧き出てくるのはやり場の無い困惑を孕んだ怒り。


