アルテミスの内部にいつ入って来ていたのか。
腰を下ろして俯く長老の、妙に哀愁が漂う姿を眺める様に、正面には神官が佇んでいた。
暗闇の中で、神官の穏やかな笑みが見える。
長老の付き人として宿命付けられてきた彼は、いつもそうだ。
誰よりも、何かを知っているかの様な。
全てが分かっているかの様な。
そんな不思議な空気を纏いながら、彼は欲しい答えを、道標を、与えてくれる。
だが彼は、意地の悪い性根の持ち主だ。
だから彼は、はっきりとした答えは与えてくれない。
道の存在を教えてくれるだけで、どの道に進むべきなのかは、教えてくれない。
「……間違っているか、だと?……長老………そんなものは………ただの愚問だ。…我々にとって、長老である貴方の言葉は…疑い無き真実でしかないのだよ。………貴方が間違っていると思えば、それは間違いでしかなく……正しいと思えば…正解でしかないのさ」
「………役に立たぬ付き人だな…」
呆れた、とでも言うかの様に溜め息を吐いた後………長老は、不意に笑みを引っ込めた。
真っ暗な足元を見下ろしたまま、微動だにしない神官と共に…しばしの沈黙を堪能した後、小さな声で、長老は呟いた。
「―――あれが、見えたか?……神官」
「………残念ながら…見えてしまった。…おや、千里眼の無い貴方が…分かるのかね、長老」
「……虫の知らせ、とでも言うか。…こればかりは、分かってしまうことだ。………仮にもあれは………私の子…だからな。……………………………………逝ったのか…?」
「………いいや。だが、それも……………………もうじきだ…」
…そうか、とだけ答えるや否や、長老はゆっくりと…重い腰を上げた。
相変わらずの重苦しい空気を纏い、動き始めた我が主を眺める神官に、長老は再度口を開いた。
「………我等が同士達を、ここに集めろ。今すぐにだ………告げを出す」
「…仰せの、ままに」


