亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


アルテミスの内部にいつ入って来ていたのか。
腰を下ろして俯く長老の、妙に哀愁が漂う姿を眺める様に、正面には神官が佇んでいた。

暗闇の中で、神官の穏やかな笑みが見える。
長老の付き人として宿命付けられてきた彼は、いつもそうだ。

誰よりも、何かを知っているかの様な。
全てが分かっているかの様な。

そんな不思議な空気を纏いながら、彼は欲しい答えを、道標を、与えてくれる。
だが彼は、意地の悪い性根の持ち主だ。

だから彼は、はっきりとした答えは与えてくれない。
道の存在を教えてくれるだけで、どの道に進むべきなのかは、教えてくれない。





「……間違っているか、だと?……長老………そんなものは………ただの愚問だ。…我々にとって、長老である貴方の言葉は…疑い無き真実でしかないのだよ。………貴方が間違っていると思えば、それは間違いでしかなく……正しいと思えば…正解でしかないのさ」

「………役に立たぬ付き人だな…」




呆れた、とでも言うかの様に溜め息を吐いた後………長老は、不意に笑みを引っ込めた。

真っ暗な足元を見下ろしたまま、微動だにしない神官と共に…しばしの沈黙を堪能した後、小さな声で、長老は呟いた。

















「―――あれが、見えたか?……神官」

「………残念ながら…見えてしまった。…おや、千里眼の無い貴方が…分かるのかね、長老」

「……虫の知らせ、とでも言うか。…こればかりは、分かってしまうことだ。………仮にもあれは………私の子…だからな。……………………………………逝ったのか…?」

「………いいや。だが、それも……………………もうじきだ…」










…そうか、とだけ答えるや否や、長老はゆっくりと…重い腰を上げた。

相変わらずの重苦しい空気を纏い、動き始めた我が主を眺める神官に、長老は再度口を開いた。












「………我等が同士達を、ここに集めろ。今すぐにだ………告げを出す」

「…仰せの、ままに」