…どいつも、こいつも。
揃いも揃って。
(………ろくな事を言わぬ…輩共め…)
木の皮で作られた筒状の文は、すっかりよれてしまっていた。
紙面につらつらと綴られているやけに達筆な文字。この文の書き手があの男だと思うと…もう二度と読むものか、と遺憾に思うのだが。
我が意志に反し、文を掴む手はそっと紙面のしわを伸ばし、視線は再度その文字の並びに落ちる。
二度は読まない。読む必要も無い。
だが、老いた目は全ての文面を流し終える直前で……最後の一行のところで、止まってしまう。
節くれだった指が、何度もその一文を撫でる。
たった一行の、短い…―――『父上様』、を。
………あの男は、こんな文字を書くのか。
ふと、そんな事を思った。
あれは、いつから文字が書けるようになったのだろうか。
あれに文字を教えたのは神官だ。私が知る筈が無い。
そう、私は、知らないのだ。
私の知らぬところで、あれはいつの間にか成長し、いつの間にか自分と背丈が変わらぬ程に大きくなり。
いつの間にか。
父上様、など………呼ばれたことなど、果たしてあっただろうか。
………いや、恐らく、私が忘れているだけで。
見ようとも、聞こうともしていなかっただけで。
そう、か。
あれは。
あれは、私の。
「―――………子、だったか…」
何を、今更。
自嘲的な薄い笑みを浮かべながら…長老は、文を地に落とした。
暗闇が住まうこの空間。薄っぺらい文が着地する微かな音を耳にした後……長老は大きく息を吐いた。
何もかもを吐き出す様な、そんな深い吐息。
「―――…神官よ。………私は………間違っているのか?」
「随分と弱気だな」


