“―――まず最初に、申し上げておきます。お久しぶりで御座います。
文面で交わす言の葉は、何とも味気無く、面と向かっての挨拶ではない事が、少々無礼であり、私自身心苦しくもありますが。
私には最早、その様な資格も無ければ、貴方様も私なんぞの面など目にしたくもないであろう事を、考慮し。
これが、一番良いご挨拶であるかと。
貴方様に目を通して頂けるのかは、分かりませんが。
もし、恐れ多くも私からの文を読んで頂けているのでしたら。
私から、一つだけ。
今生の願いが、お頼み申し上げたき事が、一つだけ、御座います。
貴方様にとっては、既に承知の事実でしかない事ですが。…今この国は、我等の神の慈悲により、目を覚まそうと致しております。
しかし、その目覚めに伴い、国中の獣達が狂気によって猛威を奮おうとしている事を、お気づきでしょう。
我々狩人は、神の為す行いに常に身を任せ、従ってきました。今度も同様に、我等は、貴方様は、この神からの災いを運命と受け止め、時が過ぎ去るのを待つのでしょう。
それは、当然の事。我等狩人の生き方であることは、重々承知しております。
ですが、私は。
私は、愚かにも私の意志は、異なるのです。
お願い、申し上げます。どうか、民の命をお守り下さい。
共存をはかってきた我々の歴史の中で、それが何を意味するか、分かっております。
しかしながら私は、共存とは、もっと別のものであると感じております。互いの間に線を引く事よりも、もっと他に、もっと良い方法がある筈であると。
旅を続ける中で、私は考える様になりました。
堕ちた私の言葉など、浅ましいもの以外の何物でもありませんが。
私は、街の民が好きです。街が好きです。そこにいる人間が好きです。我々狩人とは違う、異なる彼等が、好きです。
彼等は我々を忌み嫌いますが、それは我等とて同じこと。嫌いあっている故に、我々は、違う術を見出だせないのです。
どうか、お願いです。彼等を、お願いします。
それだけです。
最後に一度だけ、呼ばせて下さい。
父上様…―――。”


