晴れていく。
綺麗な夜空が、見えてくる。
あんなにも凄まじかった魔力の嵐が、次第に消えていく。
透き通っていく空気に、ただ、目を凝らす。
見えてきた景色に、目を凝らす。
大きく目を見開いて、じっとその光景を。
夢か何かだと、言ってほしい、その、光景に。
「………何…やってるのさ………………何をやっているんだよ!!…ザイ!!」
視界の向こうに見える、いつの間にか出来ていた信じがたい光景に、肩を震わせたユノが叫んだ。
ザイが。
あのザイが。
ザイが、刺されているだなんて。そんなこと。
歪んだ城門を隔てた先にあるその姿は、どう見てもザイ本人で。
肩をわななかせて血を吐き、しかしそれでも震える足で力強く佇む彼は。まさしく、ザイで。
(―――自己犠牲、とは…)
人間にしては、なかなかやってくれるではないか…と、ノアはこれ以上続けても意味を成さなくなった魔術の手を、ゆっくりと止めた。
頭上の魔法陣が、スウッと薄らぎ、暗闇に同化して消えていく。
城壁内に渦巻いていた魔石による負の魔力も、急激に勢いを無くし………吹雪にのまれて掻き消えていった。
全てが、元に戻っていく。本来の景色に。本来の冷たさに、静けさに。
小さなザイのシルエットが、音も無く、動いた。
ガクガクと震える腕は腰に差していた剣を抜き、勢いよく、目の前のゼオスに向かって、横一文字に振り払った。
既に微動だにしていなかったゼオスの巨体は、腰から真っ二つに切断され………分断された二つの身体は、積雪に落ちた。
当の昔に流しきっていたのか、横たわる屍に血は全く無かった。
ただひたすらその光景を、父の姿を凝視していた幼い紺色の瞳は。
ゆっくりと、地に崩れ落ちる父の姿を映した。
溢れ出てくる熱い何かが、視界を歪ませた。
無我夢中で、レトは走った。


