亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

吹雪のか細い歌声に塗れた中で、両目はようやく視覚を取り戻した。
闇の漆黒と雪の純白が交差する、モノクロの世界。
その、向こうに。



否、すぐ目の前に。






大地に沿って平行に、そしてこちらに真っ直ぐ伸びてくる…鈍い銀の光沢。
折れた枝の先の様に、ボロボロに砕けたその先端。少し前までは鋭利に尖っていた筈の、今はただの折れた剣。

それは、迫る。


あっという間に。こちらのただ一瞬の、瞬きという隙を突いて。
身を捻る余裕も無ければ、剣で弾き返そうにも距離が近すぎた。
男の躊躇いの無い突きは、ただ一点……心の臓が眠る、ザイの胸部に向かっていた。

…反射的に、握り締めていた弓で身を庇った。
盾代わりとなった弓に、折れた剣先が深々と突き刺さる。
神木アルテミスの枝から生み出された弓だ。その身は細く折れやすいが、そこらの弓よりも頑丈だ。剣一本受け止める事など、容易い。






狂人の、剣で無ければ。























「―――………」







震える唇の内側で、ザイは奥歯を噛み締めた。
声を漏らすまいと、ただ、耐えた。



全身に走る、壮絶な痛みに。









銀の光沢が、見える。
目の前に、見える。
我が相棒と言ってもいい、長い狩人の弓に突き刺さっているのが見える。
そして。








私の、目下。


トクトクと鼓動が聞こえてくる、私の胸を、貫いているのが、見える。





















胸から背中にかけて、刃が、生えている。






刃零れの激しい剣に、私の血が伝って流れていくのが見える。


白いキャンパスを染めていくのが、見える。


















最後に見たのは、いつだったか。






そうか。

私の血は、こんなにも赤々と、していたのか。





















「父さん?」