亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



その時、だった。


それまで激しく揺れていた地表が、何の前触れも無く………僅かにだが、緩やかな揺れへと変わったのだ。
足元はまだふらつくが、どうにか立てるくらいの揺れだ。吹き荒れていた突風も何故か弱まり、視界は相変わらず悪いが、先程よりもクリアだ。


何が、起きたのだろうか。


首を傾げながら地に剣を突き刺し、なんとか立ち上がるレト。
その傍らでは、この機を逃すまいとノアが魔術の力を増幅させていた。
頭上の魔法陣はより大きくなり、地震も更に弱まっていく。

「………何だい?……何が…」

不自然なくらいに静かになった辺りの様子を窺いながら、恐る恐る腰を上げるユノに、ノアが無感情な声を漏らした。

「………暴れ馬のヨルンが………どうした訳か……動きを止めている様ですね。………何故かは知りませんが……今…好機です」

何故か大蛇である白の神、ヨルンの妨害が薄らいでいる今、ノアは魔石の相手に専念出来る。
この状態がいつまでもつかは分からないが。



大蛇の強大な力が弱まり、辺りは少しばかり静かになった。魔石による魔力の凄まじい嵐はまだまだ健在だが、地震と突風が無い分、幾分マシだ。城壁内の空気がどす黒い闇色から灰色へと変わっている。目を凝らせば、城門の向こうの景色が微かに見えた。下手すれば魔力の嵐に巻き込まれてしまうその手前にまで歩み寄り、レトは遥か遠くにある筈のの、我が父の姿を捜した。

黒い靄の向こうで、赤い火花が散るのが見えた。


まだ、激しい乱闘が続いているらしい。二つの小さなシルエットは互いに何度か距離を詰め、弾かれた様に離れた。



その内の片方が、地を蹴った。

途端、魔力の流れに身を任せた猛吹雪が、地を這う様に大地に吹き付ける。両目の視界が、白一色と化した。真白だった。何もかも。





目の前が、何も見えなくなった。何も、見えない。まるで雪崩の中にいる様だ。
容赦無く、冷たい雪が眼球を覆う。ああ、煩わしい。耳も、鼻も、麻痺しているのだろうか。冷たさを通り越して、最早何も感じない。

せめてもの抵抗とでも言うかのように、身体は無意識で瞬きを繰り返す。睫毛に、瞼にかかっていた純白の欠片がハラハラと落ちていく。