亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



(…これで…っ…)


右の頬に触れる氷の矢の冷たさを感じ、位置、高さ、角度共々を見極めたと同時に、青白い矢は放たれた。

ザイの光速の剛弓はこの凄まじい風にも怯まず、真っ直ぐに飛来し…。











一寸の狂いも無く、主の狙い通りに、男の剣を貫いた。






今ある唯一の弱点。
細かなひび割れのど真ん中を貫き、小さな風穴を生み出した途端………脅威の刃は、真ん中から砕け散った。

「―――っ……チッ…!」

鋭い剣の切っ先が、クルクルと回転しながら宙を舞う。男の手中には、最早当初の巨大な剣の面影は無く、あるのは綺麗に真ん中から分断された、ごく普通の長さの剣の姿だった。


半ば白目をむいた男の狂乱的な顔が、見る見る内に歪んでいく。








離れた場所に着地するや否や、ザイは再び敵との間合いを詰めるべく地を蹴った。
武器破壊に伴い、こちらも相当な数の武器を消耗したが、これでいい。

これで、いい。
後は。





「―――…魔石を駆使し、化け物じみた身に堕ちながら………………私独りに、何をてこずっているのだ…」


微かな嘲笑を浮かべ、低い声でそう呟いた。
それは吹雪に直ぐさま飲み込まれてしまう程小さな声だったが。


男の地獄耳は、掬い取ったらしい。
狂気に陥っていても、人語はまだ理解出来るのか………男の醸し出す空気に、濃い殺意が混じった気がした。









「―――あああアアあああアあぁぁ!!」

















狂った咆哮が、雄叫びが鳴る。
人間離れした速さで、男が距離を詰めてくる。
青白く血管の浮き出た顔を歪ませて、折れた剣を構えて。



―――ああ、速い。



こちらから近付くつもりだったが、まさかあちらから来るとは。


魔石の力で狂いっ放しでも、厄介な人間の感情だけは、しつこく残っているとは。身も心も、奴はまだ死に切れていないのか。







可哀相に。