…だが、それは。
城壁の一部が、大きく崩れ落ちた。
凍てついた煉瓦の一つ一つが、強すぎる突風に煽られ、内へ外へと落下する。
…城全体を覆うノアの結界が、弱まり出していた。
頭上の魔法陣はゆっくりと回転を続けてはいるものの、最初ほどの勢いは無い。
城壁内から何処からともなく、獣らしきものの奇声が響き渡った。
…恐らくこの気配は、白の神。
城壁内を荒らし回り、突風と地震を起こし、結界を弱めているのも白の神なのだろう。
魔石と白の神……最悪な組み合わせだ。
…このままでは、魔石が破壊されるよりも早く、城が壊滅してしまうかもしれない。
そうなれば事態は、堕ちるところまで、堕ちる。
今はまだ見えぬ弓張月が昇る前に、この城は、堕ちる。
…城の結界が無くなればどうなるだろうか。破壊と同時に、この禁断の地に巣くう獰猛な獣で溢れ返るだろう。
そうなれば、皆。
皆。
レト、が。
…その、刹那。
ザイともあろう者が、敵を前にしながら一瞬の隙を見せてしまったらしい。
たった一度の瞬きの後、開いた瞼の向こう…目と鼻の先には、男の血まみれの手があった。
ハッと我に返るも時既に遅く、男の節くれだった手は反応が遅れたザイの首を勢いよく掴み、小刻みに揺れ続ける高い城壁にそのまま押さえ付けられた。
後頭部と背中には、冷たさを添えた凄まじい鈍痛。
容赦無くギリギリと男の指が首に食い込み、捩られる皮膚と圧迫される喉が悲鳴を上げる。
「…ハハハ…ハーハハハハ!!…どうだよ……どうだ…今、の…キブンはよっ…!!……ヒハハハ!!最高だろ!?サイコウだ、ろう…!!ウルガ!!……ウルガ!!」
「………っ…ぅ……」


