しかしこんな極めて騒々しい中でも、微かに…本当に微かに聞こえるレトの指笛の音色を、ザイは聞き逃してなどいなかった。
親子を隔てる壁や門は高いけれど、今はお互いの顔さえも見えないけれど、あの大きな魔法陣の下に、同じ場所にいる。
息子の音色が聞こえる。それだけで、頑張れる。動くことが出来る。
レトも、あの小さな身体で、寂しさを抑えて頑張っているのだから。
(―――…ま……せき………“魔石”…だと?)
一文字一文字丁寧に送られてくるレトのメッセージを、ザイは聞き取っていた。
そこから導き出した魔石、という単語により、ザイはこの状況を生み出している元凶の正体を、憶測ではなくはっきりと理解した。
やはりあの石…魔石という代物だったのか。
魔石がどういうもので、どういう性質を持ち、どんな影響を与えるのか。…ザイも一知識としては、知っていた。
その破壊の仕方も、知っていた。
魔石を相手にする時、どうすべきか。
……近年ではあまり知られていないが、そういう戦術が、狩人の中でも一部だが…きちんと語り継がれている。
今よりも戦の多かった大昔の、生き延びてきた先人達からの教えだ。
戦術こそが、狩人の教えの中でも一番重要とされている。
同士を、家族を、己を守る術なのだから。
(………だが…)
魔石を破壊するには、魔石自体の力を弱めなければならない事が不可欠。魔石に魔力を腹一杯食わせる事が基本なのだが………どうやらあの石、相当貪欲らしい。
食っても食っても、食い足らないのか。満足しないのか。…石の力は弱まる気配が無い。
…そんじゃそこらの魔力よりも、もっと強力で、もっと大きな…“力”を食わせれば。
そうすれば、良い。
それは、何なのか。
何、なのか。
それも、ザイは、知っていた。


