「―――…あ、赤が足りねぇ………アカがたりねぇ…!…ッハハハハ!!ハハハハハハ!!もっとだ!もっと!!モットしぶとくアバレろよ!」
「………っ…」
狂った人間の、気味の悪い奇声が繰り出される刃と共に飛び交う。
男の全てを貫く様な血眼はザイを映していたが、どうやら彼は、己の眼球が見ているものとは丸っきり別の、何か幻覚を見ているらしい。
その証拠に、男の呂律の回っていない舌は別人の名を時折吐き出している。
相手をしているのはザイだというのに、男は仕切りに、『ウルガ』と呼ぶ。その名を、喚き散らす。
それが誰なのかなど、今は知ったことではない。
―――ブンッ…と、動きが大きい割に速さを兼ね備えた孤を描く一振りをぎりぎりで避け、そこから跳躍して後退すれば、下品な笑みを浮かべていた男の表情が、豹変した。
苛立ちや憎しみといった、人間臭い感情に歪んでいる。
「………俺、だ。オレの方が、強、い。…お、お、俺のほうが、てめぇなんかよ、りも……何倍も、何十倍も、上…だ…!てめぇの出る幕は………もう無いんだ…よ…!………なのに…ナン、ダ、よ…その、目、はっ…!!」
ウルガ、ウルガ、ウルガ、ウルガ………生意気な野郎め…!!
繰り返される別人の名。
だらし無く涎を垂らし、吐血しながら、男はここにはいない誰かへの罵倒を続ける。
声に感じる怒りの念が増すほど、男の動きは速く、そして激しくなる。
刃こぼれの凄まじい彼の剣は、持ち主の狂気をそのまま具現化した様に、暴れ回る。
加えて少し前から、地震が止まない。
どうやらここ一帯だけが揺れているらしい。
城壁内で何やら一騒動あったらしいが、気にかけようにもこの狂った男が邪魔をする。
凄まじい風と有害な魔力と地震と、そして狂人。
重なる悪条件による今の状況は、とにかく最悪だ。


