野犬の群れを一つ潰したところで、今はとりあえず先を急ぐことにする。他の獣の姿も木々の影に見え隠れしていたが、ひょんな事から出来上がったブロッディの死骸の山に目は釘付けの様で、舌なめずりをしながらまだ温かい屍に食らいついていた。
これで少しの間は足止めが出来る。
…さて、とジンは真北の方角に改めて向き直る。辺りはもう暗い。日の無い今は“闇溶け”のしやすい環境だ。
外界から自我を孤立させ、意識を集中させて周囲の闇を引き寄せる。
手慣れた様子で全身に闇を纏った、その直後…ジンの傍らに、音も無く漆黒の影が歩み寄ってきた。
見事なまでに気配を消しきったその影に、ジンは一瞬身構えたが……すぐに構えを解いた。
「………貴方…ついて来ていたのですか?」
そう言って、呆れた様に息を吐くジンの真後ろには……鋭い眼光を真っ直ぐ向けてくる漆黒の獣が一匹。大きな猫…黒豹に似た姿には、見慣れたものだ。
…しばらく見ていなかったが、間違いなく、それはトゥラだった。
“目覚めの災い”が起き始めてからというものの、獣の凶暴化という影響を勿論のこと受けてしまうトゥラは、主であるローアンを誤って傷付けてはならぬと、闇に溶けて自ら姿をくらましていたのだが…。
「…トゥラ…貴方、大丈夫なのですか?」
リストには不評であり怖がられている生まれつき鋭い左目で見下ろせば、トゥラも同等の…人を見下す様な、少々生意気な目で睨み返してくる。
…トゥラはうんともすんとも応えないが、他の狂った獣に比べてこうやって大人しくしている分、とりあえず大丈夫な様だ。今のところ、危険は無い様に思える。
…今のところは、だが。
「…もし我を失って暴れ回る事態になっても…私と同行した方が陛下に害は無いということですか?」
「―――」
「…嫌いではありませんよ、貴方のそういう陛下に一途な点は。………行きましょうか」


