…打開策が見出だせない。
何も出来ないなんて嫌だ。この吹雪と不気味な黒い嵐の向こうで、父さんは独りで闘っているのに。
微かだが、刃の交える音が聞こえてくる。絶える気配の無い音色と、止まない魔力の嵐からして、勝敗はまだついていないらしい。
いても立ってもいられないのに、ここから一歩も動けない。親の迎えを待つ子供の様に、ただ指をくわえて好機を待つしか無いのか。
地震の揺れに耐えられず膝を突いていたドールを支えながら、レトは吹雪の向こうに向かって、指笛を鳴らした。
語りかける様に、がむしゃらに、父に向かって。
グルグルと回り続ける濁った血眼は凄まじい狂気を帯びている。
綺麗に並ぶ尖った歯の列から涎が溢れ出ている大きな口は、喉の渇きと飢えを訴えている。
底の知れない飢えにあてられて躍動する胃の奥から吐き出される吐息は、悪臭の塊そのもの。
狂った獣。狂った生き物。
その様は生きた狂気そのものだというのに、狩りという…自然界では当たり前の彼等の行為だけは、まともだった。
見た目通り、そのまま狂っていればいいものを。空かせた腹に入れる事が出来る獲物をその血眼で捉えるや否や、彼等は狂いながら、しかし機敏な動きで襲い掛かってくる。
…しかもその数がまた、多いものだから。
(―――非常に、邪魔だ)
真っ向から飛び掛かってきた狼の如き大きな獣をヒラリと躱しながら、ジンは右目の眼帯とは反対の隻眼で周囲を見回した。
本来ならば護衛としてローアンの傍から離れてはならないジンだが、その主からの断れぬ命令により、今は単身でローアンよりも一足先に『禁断の地』である城へと向かっていた。
異郷の地での、果てしない道中。
祖国では有り得ない環境や、この雪国に棲息する独特の獣達の扱いには幾分慣れたつもりだったが。
………慣れたとしても、厄介なものは厄介であるし、不愉快なものは不愉快でしかない。


