ヨルンの身体は白い霧状で物理的な攻撃は効かないが、時折表に現れるあの大きな口には効くかもしれない。
口の開閉時を見極めるにはタイミングと速さが必要。外せばそのまま食われるのが落ちだ。
一か八かの難しい攻略だが、動きを封じられている今ならば可能かもしれない。……それに、父の様子も気になる。ヨルンの起こす突風のせいで、城門の向こうまでかろうじで見えていた視界は最悪だ。
レトは無言で、素早く弓を構える。冷たい大気中の細かな結晶が集い、鋭利な氷の矢に変化した。右の頬に感じる、この番えた刃の冷たさ。尖った矢先の先に、巨大な大蛇の頭を合わせた。大きく口を開いた時が、好機。
凶暴な金の目玉が現れたり消えたりと繰り返すその一方で、沈黙を守るノア。靡く長髪の隙間からちらりと見えたその唇は、何やらブツブツと誰にも聞こえない声で呟いている。
矢を向ける時、今僕は、何を殺そうとしているのかなって、一瞬思う。弓を構えるのも、獲物に矢先を向けるのも、僕等にとっては呼吸をしているのと同じくらい当たり前の事で。
だからこそ、一瞬でもいいから考えなさいって、父さんは僕に言う。
何の命を奪うのかを。命を奪うという事を。
当たり前のことだから、逆に考えないといけないんだって。
僕等狩人が、ただの人であることを忘れないために。
だから僕は、こんな時でも考えてる。
目の前にいるのは、白の神。大蛇。危険。獲物。敵。敵。テキ。
そして、ノアの大切なヨルン。
ノアは何も言わないけれど、悲しそう。とっても悲しそう。……だから僕が代わりに。
大丈夫。大丈夫だよ。
(―――汚れ役は、慣れてるから)
―――…刹那
今の今まで焦点の定まっていなかった荒れ狂う金色の双眸が。
強烈な殺意を込めて、レトを、映した。
…いけない。


