「冗談じゃないよ…!…第一あの化け物…急に何処から出て来たんだい!?城の中から出て来た様に見えたけど…」
城壁から外には出ようとせず、城の周りをグルグルと徘徊し始める大蛇。その動きがやけに慎重でゆっくりとしているものだから余計に不気味だった。
実体が無い故に、大蛇は様々な障害物をものともせずすり抜けていく。だが、時折大きく開くグロテスクな口は、柱の一つや二つを噛み砕いた。
こんな時に、何故あんな化け物が。
そうこうしている内に、第二波の暴風が襲ってきた。物理的な攻撃は一切効かない獣を相手にどうする事も出来ず、レト達はただひたすら耐えた。
その直後、大蛇はとぐろを巻いて勢いをつけたかと思うと、こちらに滑り込む様に突進してきた。その先頭に見えるは大きな赤い口。粘り気のある唾液でテラテラと光る牙を剥きだして、それは急激に距離を詰めてきた。
必死で突風に耐えていた面々の脳裏に、一瞬、走馬灯が流れる。
「来る!?…来るよ!?速いよ!!」
「いやあああ!?」
パニックに陥るユノと、普段は強気なドールまでもがヒステリックな悲鳴を上げる。その中でほとんど反射的に、且つ冷静に戦闘体勢に入ったレトだったが、剣を抜こうにも風圧が身体の自由を奪う。
あっという間にすぐそこまで接近する大蛇の口を睨み、一か八か、紙一重で避けるしかない、とレトは判断した。一瞬でユノを抱え、そのままドールも巻き込む様に転がりこめば……と身構えた、その途端。
「―――お痛が過ぎますよ、ヨルン」
酷く物静かで、しかし寂しげなノアの呟きが聞こえたと同時に、大蛇の突進は、数メートル手前でピタリと停止した。
よく目を凝らして見れば、大きく口を開いた大蛇の前には、青い光りを放つ魔法陣が垂直に浮かんでいた。
ゆっくりと回転するそれは、ノアが咄嗟に発動させた魔力の厚い壁、もしくはバリアの様なものであり、大蛇の進行を妨げている様だ。
一見、大して大きくもない優雅に浮かぶ美しい魔法陣だが、威力は絶大らしく、あの大蛇がいくら力ずくで前に進もうとしても魔法陣はびくともしない。


