亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



全長十メートル…否、軽く二十メートルはあるのではないかと思われる原形を止めない白い大蛇は、グルグルととぐろを巻き、地上をゆっくりと見下ろすかの様に頭を垂れた。
獲物は何処かと視線を泳がせる鋭い金色の瞳は、澄みきった輝きを秘めているものの、それは何処か虚ろで焦点が定まっていない。
眠気に襲われているかの様な朧げな視線は頭上の魔方陣を見上げ、渦巻く魔力の嵐を映し、そして最後に……目下の、ノアの姿で止まった。


「―――…ヨルン……貴方…」

困惑と悲しみの入れ混じったノアの声に、大蛇は、その目で笑った様に見えた。


高低差のある互いの視線が交わるや否や、白い大蛇は突然長い巨体を捩じらせ、城壁に沿う様に下降してきた。
低い咆哮を上げる半透明の真っ白な身体は、立ち並ぶ柱や搭をすり抜けながら、レト達の前を物凄い勢いで通過していく。

―――ゴウッ、と実体の無い大蛇は白い突風と化し、吹き付けた。

「…っうあ…!?」

「……っ…!!」

吹雪の冷たさとは異なる、少し湿り気のある暴風は、凄まじい風圧でレト達を後方へと追いやった。ドールは巨大化させた鎚を柱に引っかけ、吹き飛ばされぬようにと地に伏せた。危うく風に身体を持って行かれそうになっていたユノをレトが素早く引き寄せ、敷き詰められた石畳の窪みに剣を突き刺し、暴風に耐えた。
ノアだけが、この風の中で平然と佇んでいる。


「……っ…何なんだいあの化け物は…!」

レトと繋いだ手に力を込めながら、ユノは上空を見上げた。白い突風の大蛇は城門近くで一旦動きを止めていたが、また戻ってくるつもりなのだろうか。金色の目玉が、こちら一点を向いている。

「……『白の神』だ…」

「…白の、神?」

ポツリと聞こえたレトの声に彼を見やれば、いつもは半開きの目をこれでもかと言わんばかりに丸くして大蛇を凝視している。


「……この国にいる獣の中で、一番大きいって言われてる獣だよ。僕達狩人は、あれを白くてとっても大きくてとっても凶暴だから…『白の神』って呼んでるんだけど…………あんなに大きいの、初めて見た……」