暗雲色の予兆は、すぐに不穏な音を奏で、目に見えるものへと豹変した。
高々と天を仰ぐ城壁に囲まれた、壮大な純白の城。
その城の正面以外の北、西、東側に当たる場所には、それぞれ細い渡り廊下で繋がった大小の塔が幾つか並んでいる。
その西側の塔から…だろうか。
「……………何…あれ…」
誰よりも早く最初にその姿を目にしたのは、城壁の角に身を潜めていた、サリッサだった。
………厚い窓も扉も、風が入り込む隙が無いほどきっちりと口を閉ざしている筈の城内部から、濃い真っ白な霧状の固まりが、ゆっくりと外に漏れだしていた。
まるでそれは積乱雲の様な輪郭の無い形状で、上空にゆっくりと昇りながら、あの高い城門をどんどん追い越していく。
一見それは白い霧だったが、吹き荒れる魔力の嵐に一向に靡かないどころか辺りの雪を吸収しており、しかもよく耳を澄ませば低い獣の唸り声に似た音を発している。ただの霧ではないことは、確かだ。
巨大で、細長く白い雲が、上空の魔法陣へと伸びていく。
この暗がりでも分かるほどそれは白く輝き、時折瞬いて見せた。
あれは何なのだろう?
一番上の先端には、金色に輝く小さな明かりが二つ。爛々と光るそれはまるで、目玉の様で。
…いや、あれは、目玉だ。金色の目だ。
生き物だ。
白くて大きくて、細長くて。
低く、呻く、獣。
城から突如現れた、獣。
真っ白で実体の無い、大きな、蛇。
…その、次の瞬間だった。
今までゆっくりと煙の様に立ち上っていた真っ白なそれが、大きな口を、開いたのだ。
二つの金色はやはり目玉で、その下には鋭利な牙が並ぶ真っ赤な口が、半透明に見えた。
長い舌をベロリと表に出し、白い大蛇は、暗い空に向かって咆哮を上げた。


