「指笛で説明が出来るか知らないけど……あんた、伝える事は出来る?」
チームワークが鍵となるこの状況下では、狩人親子の指笛のみが頼りだ。緊張感を孕ませたドールの声に、レトは小さく頷いた。
「………分からないけど……やってみる。でも…多分父さんなら……聞き取ってくれる…」
「…任せたわよ」
もう一度今度は深く頷くと、レトは緩く握った拳を再度口元に運んだ。低い唸り声で鳴き続ける黒ずんだ天地。なんとかして活路を見出そうと、彼等なりに策を練る小さな子供達を傍らで眺めていたノアは、より一層、術の威力を増加させた。
靡く己の長い長い髪が乱れるのも構わない。体内から凄まじい量の力が放出し、それら全てがあの忌々しい石に食われているのも最早気にしない。
石の貪欲な腹が満たされるのはいつになるのか分からないが、出来るだけ早く。この小さな狩人の肉親が怪我をしない内に。
……城を守ることしか念頭に無かった私が、これはどういう風の吹きまわしだろうか。…昨夜会ったばかりの、知りもしない赤の他人の、それもまだこの世に生を受けてからたったの十年そこらしか経っていない人間の子供に…。
……全く、人間とは興味深い。
静かに自嘲的な笑みを浮かべ、改めて気を取り直しつつ正面に向き直ろうとした。
―――その、刹那。……小さなざわめきが、胸中を引っ掻いた。
黒い模様の浮かんだ美しいエメラルドの瞳は、レト達から外れ、正面で止まるかと思えばそこも通り過ぎ、そのまま……背後の、自らが身体を張って死守している巨大な城に、振り返った。
城を見上げたままその無表情を変えないノアに、ユノが先に気付いた。どうしたのさ?、という不安げな声に、ノアは何の答えも返さない。
ノアを不意に襲ったざわめきは、姿形も無ければ音も気配も無いが。
ああ、嫌な、予感がする。
(―――………ヨルン…?)
ああ、貴方なのですか。心で問うても、返事は、無い。


