「…レト!!」
感極まって躍動する気持ちは我が子の名を叫んだが、この風の中では本人に届く筈がない。
こちらに不気味な笑みを添えて歩み寄ってくる男に警戒しつつ、ザイは片手を唇に押し付け、指笛を奏でた。
甲高いが、息子のそれとは少し違いやや低音な音色が、魔法陣が浮かぶカオスな上空へと飛来した。
それは直ぐさま風にのまれ、掻き消されてしまったが、音色の文は待ち人に渡った。
「…応えた…!」
泣きそうな表情で黒い風が吹き渡る外の歪んだ景色をじっと見詰めていたレトは、不意に聞こえた父の音色に大きく目を見開いた。
そんな微かな音色に、ユノは全く気が付いていない。一方、ドールはさすがバリアンの戦士なだけあってその音を聞き取っていたが、指笛の内容までは理解出来なかった。
零れそうだった目尻の涙を一瞬で引っ込め、嬉しそうに少しだけ跳ねるレト。
父と別れていたのは本の何日間だけであったが、それだけでも酷く寂しく、落ち着かなかった。
城壁と不気味な魔力の嵐を隔てた、音だけの再会だったが、それでもレトは嬉しかった。
「…父さん、父さん、父さん…」
普段は絶対に見せないが不意打ちで表に出る笑顔を浮かべながら、レトは城壁と城門の向こうで時折飛び交う火花の明かりを眺めた。
怪我はしていないだろうか。大丈夫だろうか。ああ、姿がよく見えない。会いに行きたいのに。
「…指笛で会話が出来るなら、今さっきのノアの話を伝えられるわ」
これはしめた、とドールが声を漏らす。
ノアが魔石の力を出来るだけ弱めて破壊するまでの間、ザイにはゼオスの侵入を止めてもらわねばならない。
あらかじめこちらの策を伝えていれば、ザイも動きやすい筈だ。


