亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



甲高い一つの音色は、人込みに塗れる小さな子供の様に頼りなく、速い流れにあっという間に足を取られて風にさらわれた。

絶え間無い雪と邪な魔力の嵐は容赦無く全てを飲み込み、底の知れないその腹に落としていったが、行き先を知っているレトの音色は、迷い子にはならない。

嵐を抜け、羽の如く軽い白い宝石の雨を潜り、主の強い意志に従って冷たい空気を貫き。









刃の轟音を響かせては舞う狩人の耳元に、そっと、腰を下ろした。



小鳥の囀りにも似た単一な指笛、その音色が、ザイの鼓膜を震わせた。




か細く、弱々しい音色。
本の一瞬だけ聞こえた雛の囀りの如きそれは、何処か悲しげで、寂しそうで。

その小さな音色で、小さな存在を、荒れ狂う吹雪の中で主張していた。



私は、ここだ。ここに、いると。





僕だよ、と。
















(―――レト?)

どんなに小さくとも、短くとも、親鳥は雑音の中でただ一つの子の叫びを聞き分ける。
聞き慣れたその一瞬だけの音色は確かに我が子の奏でる叫びで、それは確かに、レトだった。




狂っているくせに狙いは正確な男の鋭い突きを紙一重で避け、一度大きく後方に跳躍して距離を取ったザイは、息子の指笛が聞こえてきたであろう方向を目で辿った。

音色の始点を視線で手繰り寄せれば、そこは威風堂々と佇む目の前の城の奥だった。

黒ずんだ魔力の渦巻く空気で、城壁の内側はよく見えないが、この城にはレトがいるのだ。
先日の強大な嵐で離れ離れになって以来、久しく感じていなかった息子の存在感。

心の何処か片隅で踞っていた、あの子は実はもう死んでいるのではないか…という根も葉も無い不安は、この瞬間、塵となって消え失せた。