「…ザイ、という者なのですか?あの大きな狩人は。………まぁ確かに、こうやって見ているだけでも、あのザイとやら……相当な手練れであることは一目瞭然ですね。いい勝負…と言いたいところなのですが………それは敵がただの狂った阿呆であれば、の話です」
阿呆は阿呆でも、魔石という強力な金棒を持たせた鬼なのだ。
並の人間より、力も速さも倍以上。加えて有害な黒の魔力を纏っているのだから、そう簡単に攻略は出来ないのが現状。
「それに………あの厄介な魔石、そんじゃそこらの石よりも遥かに強力の様ですね。…だいぶ私の魔力をあげている筈なのですが…ひび一つ付かない」
ザイはあの魔石を一点に絞っている様で、目茶苦茶なゼオスの攻撃を避けてばかりで反撃をしようとしない。
隙を狙い、ゼオスの手中にある石を壊すつもりなのだろうが…。
(…恐らく、弾かれるだけ)
破壊するには、まだ石の力が強すぎる。
たとえ石が弱っても、操り人形と化したゼオスが破壊を邪魔するだろう。
石の力を最大限まで弱め、且つ狂ったゼオスの動きを止めた上で、初めて魔石の破壊は叶う。
今、ノアに出来ることは、出来るだけ早く魔石の破壊の進行を進めること。
それにはもっと多量の魔力を石に食わせるべきなのだが、生憎、広大な城全体の結界の維持もたった一人で全てやってのけているノアに、それ以上の魔力を回す余裕は無い。
(………“守人”ではなく、ただの魔の者であれば…使い放題なのですがね……)
…守人になると引き受けた事を、今になって後悔するだなんて。
私にはやはり、ちょっぴり荷が重すぎますよ、陛下。


