片手は黒い魔石を握っているため、男は腕一本のみで剣を振り回しているが、それでもその力は強大である。
自分の斬撃は酷く重い、怖い、とアオイに言われたことがあるが、この男といい勝負かもしれない。
……だが、男の剣術は狩人のそれとは全く違う独特なもので、次々と繰り出してくる攻撃がいまいち読めない。
そうこうしている内に間合いに入られ、不敵な笑みの悪人面が奇声を発しながら刃を飛ばしてきた。
これも、速い。
(…避けるだけで、精一杯か…!)
対峙する両者の馬鹿力は同じ位だが、速さは狂ったバリアン兵士の方が上だ。加えて奴は痛覚を何処かに捨ててきた様で、少しも痛がる素振りを見せない。
…厄介だ。
この不穏な空気を生み出している元凶の魔石さえどうにか出来れば、事態は解決する筈だ。
魔石の力さえ無くなれば…この男は石による影響で既に深手を負っているのだ、途端に即死する可能性がある。
この男は、石によって生かされているだけだ。
男の偽りの命を生み出しているあの不気味な石さえ壊せれば…。
「―――…駄目ですね、あれでは埒が明きません」
太陽も当の昔に地の果てへと消えた後の、暗い濃霧の如き視界の向こうで絶えることの無い…火花の瞬き。
見るも無惨に歪んだ門の前で、戦いに長けた狂人と狩人がその本能のままに剣を振るっている。
金属の鈍い音色と奇声が奏でる不協和音を耳にしながらポツリ…とノアがそう呟けば、背後に下がっていたユノが叫んだ。
「…だ、駄目って何がだい!?……よく見えないけど、あそこにいるもう一人はザイなんだろう?」
ザイは、強い。向こうで戦っているのがその彼ならば、負けるわけが無いではないか。
何が駄目だというのだ。


