亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~















「―――…切れ、ねぇ…な………な、んで…当、たら、ねぇ、んだよ………避けるな逃げるな当たれよ死んじまえよ死ねよ死ねよ死ね死ね死ね死ねくたばれ………………ハハハハハッ!!」


狂った人間は、なんて、恐ろしいのだろう。
あれは同じ人間なのに。何故こんなにも、恐怖を覚えるのだろうか。

獣よりも知力を蓄え、高度な文明を築き上げてきた人間の進化の賜物の、その象徴の一つである言葉が………今はただの、無機質な呻きか騒音にしか聞こえない。

何かが欠けた人間は、醜いわけではない。ただ、自分達がどれ程儚い存在で、不安定な生き物なのか、改めて思い知らせる鏡なのだ。



怖いのは、鏡を見ることだ。





「くたばれくたばれくたばれくたばれくたばれ…ハハハッハハ……お、おおお、お前、誰だ…誰だ…ハハハハハ!!」

呂律が回っていないどころか、段々と意味不明な言語が混じりつつある高低差の激しい喚き声に反し、正確に狙いを定めた攻撃が飛び交う。

男の剣と動作は大振りであるくせに、驚く程速い。
引き締まった筋肉は伊達ではないようだ。

以前対峙したバリアン兵士と比べて、この男の実力は段違いに強い。バリアン兵士の中でも、相当な手練れなのかもしれない。
…こんな馬鹿力の男が序の口程度ならば、冗談ではないが。



凶悪な笑みを浮かべながら、男はたった一度の跳躍でザイとの距離を詰め、光速並みの鋭い突きを放ってきた。
空を貫く微かな音と、両者の間だけで捩曲げられた旋回する風。こちらに向かってぐんと伸びてきた刃をすれすれのところで躱した筈なのだが、斬撃に伴った風がかまいたちの様な鋭利な空気に変化したのか、衣服の至る箇所に切れ目が走った。