薄暗く闇が近い天に向かって突き出された剣。
怒りの根源を一刀両断で薙ぎ払うべく構えられ、一瞬ぴたりと静止したかと思えば。
死刑台のギロチンの様に、それは、真下に落とされた。
―――ビュウ、と刃は空気を掠めて、吹雪の波を断った。
雪はまた、赤を吸うだろう。
この身はまた、赤を貪るだろう。
血肉に飢えた巨大な刃は冷たく光り、一人の女王の頭上に飛び降り、脳天から真っ二つに獲物を分断する。
………筈、だったのだ。
想定していた近き未来は、いとも容易く裏切られた。
いつの間にか目の前に広がる、純白の壁によって。
「―――…何故…だ…!?」
困惑の色を浮かべる長老の目の前には、今の今まで無かった筈の真っ白な壁が存在していた。
よく見ればそれは白い木の根が幾重にも絡み付いた壁で、長老の振り下ろした剣を受け止めていた。
………まるで、ローアンを守るかの様に。
双方の境に突然出現した木の根の壁だが、長老が顔をしかめる点はそこではなかった。
根に突き刺さった剣を抜き、切り損ねたローアンには目もくれず………離れた場所に静かに佇む、大きな存在に目を向けて…。
「………何故だ。何故なのだ………………アルテミス…!」
長老が見詰める先には、一本の大木、世界樹アルテミスが神々しいまでの純白の姿を曝していた。
…双方の争いを静かに目の当たりにしていたであろうアルテミスは、当たり前だが、長老の問いには何の答えも返してくれなかった。
ただ、ゆらゆらと優雅に枝を揺らしているだけ。


