自然を神と崇め、この雪国を何よりも愛おしんでいる筈の狩人。
それなのに、この無関心ぶりは如何なものか。
……故国が、どうなってもいいというのか。
理解出来ない、とでも言うかの様にローアンは頭を振った。
「………ならば貴殿は…何をお望みなのだ?……何がしたい…?」
「―――…何も。我々狩人は神と共にあり………神の意思こそ、我々の意思。………神の望みが、我々の望みだ…。………アレスが天誅により破滅を望むのならば………私は喜んで…その業火に身を投じよう……」
幾度も聞いたその揺るぎない意志に、神官は薄暗い天を仰いだ。
いつの間にか太陽が沈んでいたらしい空は、いずれは解き放たれるであろう黒々とした闇を抱いていて、飽きもせずに雪を撒き散らしている。
いつもの、空。
いつもの世界。
だが、この平穏は今だけのもの。嵐の前の静けさでしかなく。
月が昇れば。
この静けさは、もう。
狂った悲鳴と喚きと呻きに、支配される。
「―――それで、良いのか?」
月が、昇れば。
山や谷から闇が降りると同時に。
災いが、駆け降りてくる。
牙を剥き出しにした雪崩の如き獣が。
狂った獣が。
命に飢えた獣が。
純白だけの地を、鮮やかな赤一色に染めて。
滲ませて。
拭っても、拭っても、拭えきれない、赤が。
そんな惨劇を、誰が、望むだろうか。
そんな景色を誰が見たいと言うのか。
誰が望んで。
誰が願って。
誰が。
誰が。
誰が。
「…単なる……独りよがりではないか…!」


