亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



殴られるのは痛いが、殴る方も痛いな…などとぼんやり思いながら、ローアンは右手の甲を擦った。…久しぶりに、思いっきり殴った。兵士時代は何処かの誰かをよく殴っていたこともあったが、こういう肉弾戦は間に時間が経っているとどうも鈍ってしまう。


男とは違ってどうしてもやわな身を持つ女は、はっきり言って戦闘には不向きだ。
子を産むための身体は体質上、筋肉よりも脂肪が付きやすく、鍛えるのが難しい。
どうしても男には負けてしまう歴然の差に兵士時代は随分と悩んだが…何て事は無い。

兵士として育ててくれた師の教えの賜物か、華奢な身体でも力を蓄え、引き出す技が身に付いた。身に付けるには相当な努力を要したが。

それからというもの、大人一人投げ飛ばすくらい朝飯前である。





軽く首を回していると、ローアンの目線の先で白い巨体がゆっくりと起き上がった。

背中に背負っていたもう一本の剣を抜き、積雪に引きずりながらこちらに歩んでくる。












「―――…たかが、女人と……侮っておったわ………戦いの術を知る女の王とは………どの歴代にも無かった王者だな。……盾突くその自身は…伊達ではないということか…」


無精髭に縁取られた唇が、微かに薄ら笑みを浮かべる。
…長老の顔は笑っているのに、彼の醸し出す空気はこの舞い狂う吹雪の様に荒れていて、淀んでいて。


触れたら最後、どうかなってしまいそうだ。







「―――………愚劣なフェンネル王よ……その下らぬ自信が誇る力を…何故、ここで散らすつもりなのか………気違えたのか…?……否、死に急ぎたいのか…」

「………………貴殿こそ…狩人の長に相応しいその様な秀でた力をお持ちでありながら………何故…」


















何故、故国のために使わないのか。