わななく男の唇は、何がおかしいのだろうか、にんまりと怪しい不敵な笑みを作って歪んだ。
白い犬歯が剥き出しになったその笑みから、酷く掠れた低い低い声が、漏れる。
「―――誰、だ。………お前は…」
「………」
「―――…俺、の…敵か?……敵か?………っ…ハハハハハハ…!」
…呂律の回っていない途切れ途切れの言葉。口を開け閉めする度に舌を噛んでいるのか、男の口の中は血だらけだった。
額には何本かの赤い筋と、青黒い痣。
切り傷も至る所にあったが、それら全てはまるであかぎれの様な自然に出来た傷の様で…。
………あの、石のせいか。
石を扱う男は今、狂っている。ただの狂人と化している。
人、以下に堕ちている。
…男の剣が、ゆらりと頭上に掲げられた。
彼の目の前にある、今までに散々叩かれて半分が変形してしまっている城門に、その刃先は向けられていた。
男は、狂っていながらも城内への侵入を試みていたのだ。
―――そうはさせまい、と。
ザイは再び、男に向かって剣を構えた。


