事態は一刻を争う。ならば。
一太刀で、仕留める。
徐々に近くなる隙だらけの標的に向かって、ザイはその大振りの剣を構えた。
………次の一歩で、力強く地を蹴った。
足元で、細かな雪の粉塵が舞う。風に乗って流されていく。
刃が光る。
一瞬、全ての時が止まる。
血に飢えた白刃は、空を切り裂きながら伸びていく。
日に焼けた赤褐色の、その首に向かって。
横一文字に。
手応えと共に、見慣れた、赤が。
赤が、舞っ…。
「―――…!?」
ザイは、息を呑んだ。
目前では、赤が舞っていた。
赤は赤でも、鮮血の赤ではなく。
火花の、赤が。
首と胴体の間を通り抜けていく筈だった刃は、その道に沿うどころか。
―――弾かれた。
予想とは異なる手応えは、腕に痺れを走らせた。
一瞬で沸き上がった焦燥感に、ザイは反射的に後退する。
距離を取り、顔を上げたその先には………淀んだ黒い光を帯びた、男の、目。
夜の闇の様に黒く染まっていて、凄まじい殺気を纏っているわりには空っぽの…空虚な、目玉が二つ。
…それはまるで、ただの硝子玉だ。
死んだ目だ。
あの男の目に、人間らしい生気は無い。
無機質な光を放つ男の目に映る自分を見詰めながら、ザイはゆっくりと体勢を立て直した。
…片刃の巨大な剣を握る男はじっと、ザイを見てくる。
空虚な瞳で、ぼんやりと。
はためくマントからちらちらと見える男の顔は、よく見れば血の気など既に無く、あちこちが切れて乾いた唇は意味も無く震えている。


