亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



背後では、サリッサが苦しそうに更に咳込む。
魔力に塗れた黒い風が、城の目と鼻の先にいる二人に容赦無く吹き付ける。


…真上に見える恐ろしい不気味な円陣…恐らく魔法陳に違いないが、いつまで経っても消える気配は無く、むしろ先程よりも威力を増している様に思えた。


…黒の魔力が強すぎる。とてもじゃないが…こんな強大な魔力が渦巻く城内には入れない。
目的地は目の前だと言うのに…ザイは奥歯を噛み締めた。



…あの魔法陳の、底知れぬ魔力を吸い取っているのは一体何なのだ。漂う魔力が集う先には何があるのだ。

……とにかく、この魔力をどうにかしなければ埒が明かない。仕方無しに城をぐるりと囲んだ城壁に沿って走った。城壁が途切れている場所は無いのかと見渡していると……離れた場所に、城内に通じる巨大な門の姿があり、そして。

















この、混沌を生み出している元凶の存在を、吹雪の向こうに見た。








(―――…人、間…?)


視界に入ってきた小さなシルエットは、まさしく一人の人間だった。

身に纏う白いマントでよく見えないが、それは大柄で、体格のいい若い男に見えた。
しかも衣服から度々ちらつく引き締まった筋肉を覆うその肌は………目を引く、赤褐色。


(…バリアンの、手の者…)

敵、と頭が認識する前に片腕は反射的に剣を握り直していた。
急に立ち止まり、殺気を露わにするザイの背中で、サリッサが小さく声を漏らす。




「………あの人……あの、黒い石を持っていますっ…!………あれって…」

「………」


恐怖に声を震わせる、サリッサの言う黒い石。
バリアンの者と思わしき男が握り締めているそれは、ここ一帯に渦を巻く魔力を貪欲に吸い上げていた。

怪しい黒光りを放つ小さな悪魔の如きあの石は、見覚えがある。