肉体的疲労に加えて抱えていた不安が、一気に吹き飛んだのが自分でも分かった。
…城、だ。
実際に見たことはないけれど、あれは城に違いない。
目指していた、城だ。
希望が、見えたのだ。
(―――…レト………レト……!)
…自然と、歩く速度が増す。あんなに動かすのが億劫で重かった足が、今は我先にと競うように前に出る。
息子の姿は見えない。見えないけれど………あそこに、あの城に必ずいると、己の勘は叫んでいた。
親バカだと、他人は言う。
自分でもそう思う。
狩人は、家族愛が希薄だとよく言われているが。
そんなことは、無い。
少なくとも、自分は。
何故なら、あの子は。
あの子は、私の。
私の、たった一人の。
「…何…なんです…か…あれは……?」
逸る気持ちのままに、ただ城に着く事だけを念頭に進んでいたザイの耳に、訝しげなサリッサの漏らした声が入った。
丘の上から雪崩込んでくる、途絶える事を知らない前方からの風は相変わらず冷たい。
だが、肌を刺す冷気とは違う…また異質な何かを孕んでいた。………白い吹雪だというのに、風は、目に見える黒色。
言いようの無い悪寒に、全身が粟立つ。
…酷く気持ちが悪い。吐き気がする。…一体……何が、起きているのだ?
霞む視界の向こうにある筈の、曖昧な輪郭を形取った広大な城に再び目をやれば、サリッサの言う“何か”が直ぐに分かった。
巨大な城を中心に、黒い風が渦巻いていた。
黒い蛇が幾重にもとぐろを巻いている様なその光景。更にその上空には、同じく漆黒の不気味な光を放つ不可思議な模様の円陣が城を見下ろしていた。


