亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

赤褐色の肌の顔色も何処か悪く、目元や頬、首に目立つ刻まれたしわがより深くなっていた。

真っ黒な髪から覗く…驚愕により大きく見開かれた瞳は充血していて………天敵に怯える小動物の様に、辺りにソワソワと泳いでいる。
威厳を思わせる顎の長い黒髭も、残念なことに、わななく口のせいでその効力を失っていた。




……びっしりと並んだ兵士達に囲まれ、常に最厳重レベルで警戒を解かない………無駄に息を潜める老人。






この、少しでも刺激を与えればひっくり返って死んでしまいそうな……痩せ細った老人こそ………。










………大国バリアンを治める、国の頂点。



―――バリアン王50世。


この国を恐ろしい戦争大国として、先祖代々継続してきた彼を人々はその姿から、『老王』と称する。








………しかし、その全盛期とは打って変わって………老いた老王となってからは、威厳も何も無かった。

戦火を撒き散らせ、と振るった腕は骨と皮だけ。

進撃せよ、と命じた声はしわがれ、潰れてしまっている。

鋭利な刃と返り血で我がものとした領地を踏み締めた足は、杖無くしてはまともに立てない程弱りに弱り…。

隣国を攻め滅ぼした咎により変貌してしまった砂漠の大地を見詰める目は、いつも神か何かに怯えていた。



打たれ弱い老王の、神に対する恐怖心はいつの頃からか………天から地上へと向けられ、並ぶ国家、被害妄想に近い誰某からの憎悪、吹き渡る風にまで広がってしまった。