亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



―――…カツ、カツ、カツと、温かみのある樹木の地面をブーツの底が蹴る心地よい音が、少しずつ近付いてくる。



吹雪の向こうから聞こえてきたのは、想像していたものとは違う、凛としていて高いその声音。ヒシヒシと感じるその威圧感から、何となく男ではないかと勝手に思っていたのだが。

暗闇からようやく表に曝け出されたその姿を見て、神官は微笑を浮かべた。



……黄金色が、眩しい。上品な金色の髪と、いつか見た空の色を帯びた鋭い瞳という、このモノクロだらけのデイファレトにとっては何とも贅沢な色を身に纏ったそれは、自分よりも遥かに年下で、小柄な……しかし不思議と奇妙な魅力を持った小娘だった。


鮮やかな緑が所々に入っている、黒を基調としたその服は、明らかに女が身につけるものではない。しかし、男装をしているという違和感を感じさせない程、何故か彼女には似合い過ぎているから不思議だ。
つい目がいってしまう風になびくセミロングの金髪を無意識でぼんやりと眺めていると、その下の青い眼光がゆっくりと周囲を見渡した。

周りを囲む狩人達の存在が気になるのだろうか。…それも当然だろう。彼等の彼女に向ける空気は、軽い敵意と殺意の境界線を彷徨っているのだから。それらしい合図を一瞬でも出せば、途端に矢の嵐が飛ぶに違いない。




「………わざわざ出向いてくれたところ、この様な扱いで悪いが……これも仕方のないことであってな。…お恥ずかしいことに、我々は異常に人見知りが激しいのでね」

「…いいえ、勝手ながら…むしろもっと手荒い歓迎を想像していたので……丁重な心遣いに感謝したい程です」

「たまたま私が平和主義なだけだ。…それはさて置き…………………………異端者が、何用かね」