日の光など無い、何の輪郭もつかめない真っ暗な景色の中で、数多くの命の息吹が、何故だか感じられた。



…数十年間、そしてこれから先も凍てついたままだろうと思われていた、ここデイファレトの、屍と化した森。
枝を伸ばし、青々とした柔らかな葉を付けることを随分昔に忘れ、死んだ様に眠り続ける森。



いや、この国の森は既に、死んでいるのではないだろうか。

春という今では幻の如き季節がこの国を忘れてから、生きることを止めたのではないか。

木々も、草も、花も、あの冷たいだけの雪の下で、当の昔に死を迎えたのではないだろうか。









この国は、死んだのだ。




昔の面影だけが残る、死んだ土地なのだ。屍の森を我々は意味も無く守り、神々しさを失った数え切れぬ程の精霊や神に、祈りを捧げているのだ。


















そう、思っていた。














つい、先程までは。


















(………はて……これ、は…)


















大人しい静寂と闇が住まう、薄暗がりの中。

何処に視線を移しても黒一色しかないその空間に、老いた神官の瞳…千里眼が、走った。


デイファレト内ならば、リアルタイムで何処でも何でも見通せてしまう千里眼。
その能力は何故か狩人の人間にしか現れない不思議なもので、千里眼を持って生まれた狩人はその一生を神官として過ごし、狩人の長である長老に生涯仕えることが義務付けられている。




千里眼は、全てを見る。

だが、見る能力なだけであって、全て理解出来る訳ではない。
見ているものが何なのか、神官が理解出来なければ意味が無いのだ。