…歪んだ人間性はさておき……さすがは戦闘力で一位、二位を争う戦士なだけはある。
普通の人間とは違い、雪崩如きでくたばる様な男ではなかったらしい。それでも彼とて人間、それ相当のダメージは受けた様で、何処かしらに傷を負っていた。
…他の兵士の姿が無いことからして、どうやら生き延びたのはゼオス一人のみ。
狂った獣の様に血走った眼球が、双方の間を埋めるかの様に吹き付ける吹雪を隔てて、ノアを睨み、レトと怯えるユノを映し………ドールで、ピタリと止まった。
ざんばら髪の下から覗くぎらついた眼光。
口の端に見える嫌らしい笑みに、ドールは更に顔をしかめた。
「…ゼオス……………ゼオス…!!」
徐々に殺意を露わにし始めたドールは、男の名を憎々しげに呼びながら…まだまともに動かせない身体を酷使させ、一歩ずつ前へ前へと歩もうとした。
「…ドール、駄目っ…駄目だよ……」
震えながら鎚を掴むその手を、レトが瞬時に掴んだ。
「…あら、やめておきなさいお嬢さん。そういう勝ち気なところは貴女らしくて微笑ましいですが、今は痛々しくて仕方ないがない。………近付くことは出来ませんよ」
「…邪魔、しないでよ……手を離して!…あいつは………あいつはあたしが…!」
身体をよじってもがくドールを、レトとユノが二人掛かりで抑える。
ノアはそんな暴れる彼女を見下ろし、遠く離れた場所に佇む大柄なゼオスを指差した。
「…無駄ですよ。………もう一度申し上げますが、今はあの者に近付くことは出来ません。…貴女も、そしてこの私もね」
涼しい顔で言うノアに、ドールは怪訝な表情を浮かべた。
どうしてよ…と、困惑で揺れる瞳に、ノアは綺麗な笑顔を向けてきた。


