突き刺さる殺気の根源は、どうやらエコー達ではないらしい。むしろ彼等もこの敵意に晒されている被害者側の様だ。
彼等の叫び声が、時折見える血飛沫が、それを物語っていた。
…外がどうなっているのか、目を逸らしたくなる様な惨状が広がっているのは恐らく確実であり、正直見たくも無いが……とにかくこの扉を開かねばならないだろう。
………とうとう、仁王立ちする扉の目の前にまで来ると、レトは恐る恐る扉の重々しい取っ手に手を伸ばした。
黒の革手袋に包まれた華奢な手が、酷く冷たい扉に触れるか否か、というところで…。
「お下がりなさい、小さな狩人」
頭上からの声が聞こえたと同時に、入れ墨だらけの細い手が取っ手を握った。
見上げれば、何処から湧いて出て来たのか…笑顔のノアがそこにはいた。
言われた通りに怖ず怖ずと数歩後退する二人を横目に、ノアは真正面の扉を勢いよく開け放った。
―――ゴウッ…と吹き付ける、冷たい吹雪。
真横に流れる風の群れは、誰其構わず開いた扉の口に流れ込み、城内を疾走した。
冷たい風は肌を刺し、細かな雪は髪に絡み付く。
レトとユノは約一日振りに浴びる猛吹雪に、思わず目をつむった。
…縮こまる二人に一度振り返ると、ノアはそのまま扉の外へと一歩…素足を踏み出した。
五、六メートル近くある長い緑の髪が、強風に撫でられ、美しい光沢を放ちながらサラサラとなびく。
はっきり言って防寒にもなっていない薄い衣服を着ているノアだが、この氷点下の息吹は平気な様で、実に涼しい顔をしていた。
扉を境目に、開け放った外は一面白銀の世界だった。何処もかしこも純白のベールを纏っていたが………ふと足元に目をやれば、見るも無惨なエコーの血達磨がそこかしこに、無造作に横たわっていた。


