地面を走る振動は足元から壁へ、天井へ。そして地に足を付かない空気にまで浸透しているようで、激しい運動をした訳でもないのに何故か息苦しかった。
空間が、歪んでいる。
ひんやりとした風は行き先を見失ったかの様に、狂いながらあちこちに吹き渡っている。
今の今まで穏やかだった世界が、石を投じた水面の如く幾つもの波紋を浮かばせては消え、また浮かべていた。
自分を囲む世界が、安定を保てずに身じろいでいる。呻いている。
外からの、この途切れぬ衝撃によって。
…突如襲ってきた得体の知れない雷鳴の如き音に、大広間の近くにまで来ていた二人は咄嗟に足を止めた。
ただでさえ落ち着かない様子のユノは、大音響が咆哮を上げる度にビクリと肩を震わせ、不安げにレトのマントの端を掴んでいた。
「…急に……何だい…この音…?………建物全体が揺れているみたいだけど…」
「…………………僕も…分かんない。………分かんないけど………多分………」
…多分、敵、じゃないかな。
やけに鋭い、隠す気などさらさら無いらしい殺意の塊を感じる窓の外に、レトは闘志を宿した眼光を注いだ。
…ピリピリと、空気が震えている。
張り詰めたそれは、緊張感だけではない。
レトの右手は無意識にマントの内に忍び入り、腰のベルトに差し込んでいる、今は小さな弓の柄を握り締めた。
マントを掴んでいるユノの手を取り、穏やかな声音で彼に声をかけた。
「………様子…見てくるから………ユノは、あの部屋に戻っていて………」
外に何があるのか、もしくはいるのかは知らないが………あまり良い予感はしない。
狩人の勘が、そう言っているのだ。
危険な香りがするそこへ、彼を近付ける訳にはいかない。
そう思い、言ったのだが…レトの願いに反し、ユノは顔をしかめて左右に首を振った。


