美しい模様が浮かぶエメラルドの鋭い瞳は、未だ降り止まない吹雪の単調な走りを映す半面で、ノアはその中に漂う強力な魔力の流れを見詰めていた。
ゆらり、ゆらりと空気中を漂う黒い靄の様なそれは、この巨大な城を守るべく常に放たれている、ノアの強大な結界。
たいていの魔力は容易に跳ね返してしまうノアの作り出した結界は、幾重にも重ねられたオーロラの様に揺れながら、城全体をぐるりと一くくりしているのだが…。
…その、結界が。
(…………食われている…)
微かに眉をひそめるノアの眼前で、結界の威力は縮小し、じわりじわりと現在進行形で薄くなっていた。
城を包む強大なノアの力が、この大音響が鳴り響くと共に、何かに吸収されている。
それも、急激に。
ノアの結界によって、城には外からの異質な魔力や獣、愚かな侵入者達が入れない様になっていた。
……このままでは、何かと面倒な事になる。
実に面倒臭い。そして実に個人的な意見だが……………このノアの魔力を勝手に貪り食うとは、誰だか知らないが…良い度胸である。
下卑た物言いは嫌いだが……この際言ってしまおう。
胸糞悪い。
「礼儀知らずの無礼者がいるようですね…全く…。………ドール、貴女…動けますか?」
「…馬鹿にしないでちょうだいな…」
「無理は禁物ですよ。傷口がパックリ開いちゃいますから。………あの二人がちょっと心配です。…合流しておいて下さい。私は外を見てきます」
読めない笑顔でそう言うと、ノアはスキップをしながらスーッ…と、壁の向こうに消えた。
揺れが、次第に激しくなる。ドールは武器である愛用の鎚を杖代わりにし、足の痛みに耐えつつゆっくりと廊下を歩き出した。


