「………酷、よね。………まだまだ小さい子供の身で…この世の有無だとか…迫られるなんて」
それは大人でも、同じ事なのに。
知りたい事、やりたい事、たくさんの希望、目指す夢………普通の子供にある筈の、未踏の世界へ枝分かれする人生の選択肢が………ユノには、無い。
代わりにあるのは、使命。宿命。…勝手な、神命。
創造神アレスとやらは、自分の溺愛する人間をとことん試し、虐めるのが趣味なのだろうか。
神様は本当に…勝手だ。
堅苦しい神命の内容を、ドールは頭の隅で思い出す。
この国に来る前に、あの陰険眼鏡ことケインツェルから大まかには聞いていた。
…と言っても、彼が教えてくれた神命の内容は、デイファレトの王政復古が成されればバリアンが危ない…などという、ドール達を騙すための真っ赤な嘘、法螺でしかなかったのだが。
…しかし奴が手を加えた部分以外は、全て本当の事だろう。…最悪な場合……世界が崩壊するという結末は。
(………生きる者の世界と、死んだ者の世界の崩壊…とかだったけれど…)
どういう意味なのだろうか、とドールは首を傾げた。
生きる者の世界は分かるが、死んだ者の世界とは何か?世界は一つではないか。
ふと浮かんだ、素朴な疑問。
ここは無駄に千年以上生きているらしい、恐らく博識であろうノアに何気なく尋ねてみれば……この魔の者は鼻で笑ってきた。
こめかみの辺りに、静かに青筋を浮かばせるドールに、ノアは己の長い髪を弄りながらポツリと呟いた。
「………そのままの意味ですよ。つまり世界とは………一つに限らないという事です」
………一つに、限らない?
「…だから………それって、どういう…」


