おかげでフェンネルには今、魔の者がいない。
政治にも、他国との攻防にも欠かせないそれがいないというのはかなり致命的に思えるが、現在のフェンネル王は天性の王なのか…そのハンデを上手く乗り越えてきている。
聞けばまだ十代と若く、しかも女性だというではないか。
顔は知らないけど、と漏らすドールの情報に、傍らでぼんやりと聞いていたレトは眠そうな半開きの目を丸くする。
「………春がいる国の王様って、女の人なの?………凄いねー。ハンデとか、よく分からないけど………強いんだねー」
命を生み、育む女性というものは、ここデイファレトでは神聖とされている。
その平和の象徴である女性が、争いの絶えない政に身を投じるなど考えられないと言われているだけあって、女王などという存在は偉く神々しく、そして気高く思えてならない。
凄いな、凄いなー…と目を輝かせるレトだったが、対するドールの反応は実に冷ややかだった。
…大国一つの上に立つということは、並外れた“力”が必要であることを知っている。
それは精神力だとか、武力だとかに止まらない。
…人を導く力、人を引き付ける力、色んなものを、背負う力…。
「………どんなに優れていても…結局は、戦で全てが決まるものよ。………王は、独りでは何も出来ない。いざという時、王には必ず………魔の者が必要だわ。…可哀相なフェンネル………一番必要なものが、無いんだものね…」
全く哀れんでいる様には見えないが、ドールはそう言って肩を竦めて見せた。
自ら相棒を切り捨ててしまったあの緑の国には、激流の如き時代の流れに耐え得る力ははたしてあるのだろうか。
「…いいえ、可愛いお嬢さん。………その辺は、心配ご無用ですよ」


