亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



朝起きてみれば、長い一本道の続いていたこの城の廊下は、何故か十字路だらけの廊下に様変わりしていた。
たった一晩で別の空間と化した風景に…この城は変幻自在なのだろうか、と我が目を疑ったが、よくよく考えてみればこの城の守人とやらはあのノアである。

万能で変わり者のノアの仕業と考えれば、妙に納得した。




そしてその当の本人はというと…部屋のすぐ傍にある十字路の角で、美しいステンドグラスで縁取られた大きな窓の外を、何やら歌を口ずさみながら眺めていた。
…その傍には、ドールの姿。

熱が下がったからと言って、病人から卒業した訳ではない。むしろ現在進行形で入院段階の彼女は、愛用の武器である鎚を杖代わりにして半ば無理矢理歩いていた。


…一刻も早く、元の機敏に動く身体に戻りたい…という気持ちは分からないでも無いが、右足の太股に負っている深い傷が完全に塞がるのは、まだ先だろう。



そんな健気な少女と、やけに暇そうなノアが、なんだか珍しい組み合わせだが、ポツポツと会話を交わしていた。
…何か香るだの何だのと呟いたノアを、後ろを通り過ぎようとしたドール
が怪訝な表情で応えながら見上げている。
そんな二人に、レトは近寄った。





「…香りがするって………何の臭いよ……またあんたの妄想?」

「素敵ですね、妄想!………ですが、答えはいいえです、レディ。………ちょっと…懐かしい魔力の香りがしたものですから。………お隣りの大国、フェンネルの土臭い匂いがしますね…」

「………フェンネル?…どうしてよ…?」


面白そうに目を細めるノアに、ドールは更に眉間のしわを深くしたが、「さあね」と肩を竦めて見せられた。

「私、土地も愛も頭も乾き切った“バ”の付く国程じゃありませんが……フェンネルもちょっと嫌いですから、興味ありませーんね」