黒の革手袋に包まれた華奢な手が、冷たい純白の海を撫でながら次第に埋もれていく。
片手を雪路に突いたまま、ローアンはそっと目を閉じた。
屈み込んだまま動かなくなった不可解な彼女に、アオイは怪訝な表情で一歩後退した。
異端者は本当に、何をしでかすか分からない。
「……お前、何を…」
…するつもりなんだ、と繋がる筈の言葉は、思わず息をのんだ拍子に閉じてしまった口の中で掻き消えてしまった。
その華奢な姿を見下ろしていたアオイの視線は……色白で整った顔立ちの彼女の、不意に見開かれた瞼の内に注がれていた。
…金の長い睫毛に縁取られた、大きな瞳に。
紅よりも赤い、血の色に酷似した。
―――…赤い。
「気が散る。少し離れていろ」
威圧感のある凛とした声が聞こえると共に、美しく赤い双眸がゆらりと揺らいだ。
…途端、周囲を覆い尽くしていた吹雪の歌声が、途切れた。
代わりに聞こえてきたのは………バキバキと枝を折る様な、甲高い耳障りな音色。
しかもそれは何故か、自分達の目下…地中深くから鳴り響いていた。
…地鳴りに似ているが、地震の様な振動は感じられない。
ただ、音だけが、足の遥か下方から聞こえてくる。
………何だ?…何が起きている?
あの女は今、何をしているのだ?
音源不明の不協和音に囲まれたまま、どうすることも出来ずに立ち尽くす三人。
その場で屈み込み、ダンテは積雪に我が耳を押し当てた。
鼓膜が捉えるのは、地中深くで何かが蠢いている奇怪音。
木が、倒れる音に似ている。
…地面の下で、木が動いている?
(…木の、根…?)


