…今度は後頭部を打った。
だが地味な鈍痛よりもまず、真上から伸びてきた他人の腕に喉元を押さえ付けられる息苦しさにアオイは顔をしかめた。
…黒手袋に覆われた節くれだった手が、ギリリと肌に食い込む。
(……何、だってんだ…!?)
慌てて周囲に視線を泳がせれば、金髪の女はダンテの前でずっと不動の位置を保っている。
…では今現在自分を押し倒しているのは何なのだ?
心中で悪態を吐き、吹雪に塗れた頭上にしっかりと目を見開けば…真っ先に目に飛び込んできたのが、妙な装飾が施された黒い眼帯。右目に眼帯をした、男だった。
…灰色の短髪に、見たことも無い独特の衣装を身につけた年若い青年。今の今まで何処に隠れていたのか知らないが…凄まじい殺気を露わにしたその男は、唸り声にも思える低い声音でアオイに呟いた。
「―――…異端者などと、まだ口にするか!………………この、無礼者め…!」
言い終えるや否や、眼帯の男は腹部に膝を乗せて圧迫し、身動き出来ないアオイに………短剣とは異なる鍔の無い妙な刃物を突き付けてきた。
……どうやらご立腹であるらしい彼の殺意には揺るぎなど微塵も感じられず、眼球に近付いてくる刃に、さすがのアオイもサッと顔を青くした。
「―――…ジン、もういい。その辺りで止めろ」
…尖った刃の切っ先がアオイの眼球の角膜に触れるか否か…という時だった。
威厳に満ちた女の声が、刃に制止をかけた。
眼帯の男は彼女に振り向かず目下のアオイを睨んだまま、口を開く。
「…なりません、陛下。………陛下への無礼極まりない行い……私は許せません。この外道は即刻滅するべき。…殺害許可を申し出ます」
「却下だ。むやみやたらに殺しは駄目だと何度も言っているだろう…」
「しかし、陛下」
「私を怒らせたいのか、ジン」


