光の如き速さの刃はダンテの頭上を過ぎ、金髪の女の首筋目掛けて走った。
…が、それは届く事は無かった。
何も無い虚無。何処からともなく現れた黒く長い紐の様なものが、まるで生き物の如く空を切って伸びたかと思えば、それはアオイの身体に一瞬で絡み付き、パシンッと乾いた音を立てて弧を描きながら彼を地面に放り投げた。
「ぐぁっ…!!」
「アオイ!……っ…!?」
投げ出されたアオイに視線を向けた途端、黒い直線はマナの手元の弓をあっという間に弾き飛ばしていた。黒い紐は宙を踊り、再び乾いた音を立てると視界から消え失せた。
………あれは、鞭だ。
たった一本だけだが、恐ろしく長い鞭。
だがその使い手の姿が何処にも見えない。
………気が付けば、この本の数秒の間に、三人の体勢は一気に崩されていた。
金髪の女は相変わらず腕を組んで佇んでいるだけだが、その得体の知れない不可解な力にダンテとマナは迂闊に動く事が出来なかった。
…だがアオイだけは、また真正面から挑もうというのか……叩き付けられたのが柔らかな雪の上だったにせよ、鈍い痛みが走る強打した背中を無理矢理曲げ、上半身を起こした。
「…ああ…頭、きた。……異端者が妙な事、しやがって…!」
頭を左右に振って被った雪を払いのけ、アオイは忌ま忌ましそうに女を睨みながら奥歯を噛み締める。
鞭に叩き付けられた弾みで何処かに飛ばされてしまった我が愛剣の行方は、何処へやら。
構うものかと腰に差した別の剣を掴み、そのまま勢いを付けて立ち上がろうとした…のだが、試みたアオイの身体は突如、何処からともなく目の前に現れた他人の腕によって突き飛ばされ、再び積雪に背中を埋め込んだ。


